千葉地方裁判所 平成9年(行ウ)57号 判決 1999年2月08日
原告
株式会社藤田運輸
右代表者代表取締役
藤田武人
右訴訟代理人弁護士
奥川貴弥
同
川口里香
同
石上尚弘
被告
千葉県地方労働委員会
右代表者会長
一河秀洋
右指定代理人
歌田德一
同
桜井勇
同
末永道生
同
小川満
被告補助参加人
全日本運輸一般労働組合東京地方本部千葉地域支部
右代表者執行委員長
本田英次
右訴訟代理人弁護士
渡會久実
同
守川幸男
主文
一 被告が、原告を被申立人、被告補助参加人を申立人とする千労委平成七年(不)第四号不当労働行為救済申立事件について、平成九年八月七日付けでなした救済命令中、主文2項の那須一弥に関する部分にかかる請求につき、本件訴えを却下する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用及び参加によって生じた費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、千労委平成七年(不)第四号不当労働行為救済申立事件について、平成九年八月七日付けでなした救済命令を取り消す。
第二事案の概要
一 本件は、被告補助参加人が、原告を被申立人として申し立てた千労委平成七年(不)第四号不当労働行為救済申立事件につき、被告が発した別紙命令書<略>記載の救済命令(以下「本件救済命令」という。)につき、原告がその取消しを求めた事案である。
二 前提となる事実
1 当事者及び原告における労使関係の推移について(<証拠略>)
(一) 原告は、一般貨物自動車運送事業等を業とする株式会社であり、肩書地に本社を置いている。
被告補助参加人は、千葉県地域の運輸及び一般産業に働く労働者で、全日本運輸一般労働組合(以下「運輸一般」という。)に登録された者により組織された個人加入の労働組合である。被告補助参加人の藤田運輸分会(以下「分会」という。)は、昭和五九年一月八日に結成され、原告の従業員である組合員により組織されている。
(二) 訴外齋藤勝美(以下「齋藤」という。)は、昭和五六年三月一六日、原告に大型貨物車運転手として入社し、分会の結成準備段階では分会長を、分会結成後は分会書記長、副分会長、分会長を歴任し、被告補助参加人では平成六年八月から支部書記長を務めている。
訴外那須一弥(以下「那須」という。)は、昭和六一年二月一八日、原告に普通貨物車運転手として入社し、昭和六二年六月ころ被告補助参加人に加入し、分会では執行委員、書記次長、書記長を歴任し、平成七年三月から分会長を務めていた。
(三) 原告には、昭和五六年一〇月ごろ結成された千葉一般同盟藤田運輸支部(以下「同盟組合」という。)という労働組合があったが、同盟組合の方針に不満を抱いた齋藤らによって、昭和五八年一月ごろから、運輸一般の下に新しい労働組合の結成準備が始まり、同年四月三日、齋藤は準備会の分会長に選出された。
(四) この当時、齋藤は、佐川急便株式会社(以下「佐川急便」という。)用の大型貨物車の運転手としての業務を行っていたが、昭和五八年五月一〇日、原告は齋藤を運転手としての業務からはずして、新設の社長秘書室長への配置転換を行い、さらに、昭和五九年三月三〇日、原告は、齋藤を運転手としての業務に復帰させたが、従前の佐川急便用の大型貨物車ではなく、西濃運輸株式会社(以下「西濃運輸」という。)用の普通貨物車の運転業務に就かせるものであった。
右の配置転換に関して、被告補助参加人は、被告に対し、不当労働行為救済申立(千労委昭和五九年(不)第一号事件)を行い、昭和六二年四月七日、和解協定が締結され、齋藤の担当業務及び賃金について、配置転換前の業務にできるだけ近い佐川急便用の一乗務一明路線の業務に半年以内に戻すこと、齋藤の担当業務及び賃金の決定に際しては原告は被告補助参加人及び齋藤と誠実に協議することなどが合意され、同年七月、原告は齋藤を佐川急便用の大型貨物車の運転手の業務に就かせたが、同年一二月一九日からは、再び西濃運輸用の普通貨物車の運転手の業務に変更した。
(五) これに対して、被告補助参加人は、平成元年三月三〇日に不当労働行為救済申立(千労委平成元年(不)第三号事件)を行った。この事件についても、平成二年一二月一五日、被告において和解協定が締結され、齋藤の担当業務及び賃金については、佐川急便業務復帰にこだわらず、将来大型貨物便に戻すこと、その業務及び賃金の決定に際して、原告は被告補助参加人及び齋藤と誠実に協議することなどが合意された。
しかし、原告は、この和解協定後も引き続き、齋藤に普通貨物車の運転手としての業務を続けさせていた。
(六) 原告では、株主総会における会社役員選出の決議の効力をめぐる争いが起こり、平成五年一〇月二八日、当庁による取締役職務執行停止の仮処分決定に基づき、最首和雄弁護士が代表取締役職務代行者(以下「最首代行者」という。)、山崎巳義弁護士及び松本純弁護士が取締役職務代行者に、酒井正利弁護士が監査役職務代行者にそれぞれ選任され、同年一一月二日に登記され、同日から、原告の経営は右取締役職務代行者らによる取締役会の議を経て、最首代行者が業務執行にあたる形態に変更となった。
分会は、最首代行者らが原告の業務執行をするようになったもとでも、団体交渉を申し入れたりしていたが、最首代行者が団体交渉の申し入れに不誠実な態度を示したなどとして、本件懲戒解雇の発端となった事件が起こるまでに、被告に対してあっせんの申請(千労委平成五年(あ)第七号事件、千労委平成六年(あ)第四号事件及び千労委平成七年(あ)第二号事件)を三回行っている。
2 本件懲戒解雇の発端となった事件の発生(<証拠略>、弁論の全趣旨)
(一) 原告の本社営業所で行っている運送業務のほとんどは、佐川急便から委託された同社の営業所間の貨物運送であったが、その他に、日通航空株式会社及び深井梱包株式会社(以下「深井梱包」という。)からの普通貨物車による委託運送が各一便あった。
(二) 那須は、平成三年五月三一日から一人で深井梱包の貨物運送業務に従事していた。その業務の内容は、本社営業所に出社し、普通貨物車に乗務して、市川市<以下略>ユニ・チャーム関東流通センターの深井梱包に行き、そこで積み込んだ荷物を東京都及び埼玉県にある卸売や小売の店舗数か所に配達し、配達終了後は、深井梱包には戻らずに本社営業所に直接帰庫するというものであった。
(三) 平成四年五月ごろから、原告は齋藤にも深井梱包の業務を行わせるようになり、齋藤と那須(以下、両名を併せて「訴外両名」という。)の二人乗務となった。なお、このころ、原告における、補助参加人の公然組合員は訴外両名だけとなっていた。
(四) 平成七年八月一日、右(二)の行程が変更されて、訴外両名は、深井梱包の荷物の配達終了後に、東葛飾郡関宿町にある日立化成ポリマー株式会社関宿工場(以下「日立化成ポリマー」という。)に行き、そこで荷物を積み込み、そのまま本社営業所に帰庫して、その日の業務は終了となり、翌朝に深井梱包に行き、日立化成ポリマーで積んだ荷物を降ろすように変更となった。
(五) 平成七年八月八日から、さらに右(四)の行程が変更されて、訴外両名は、日立化成ポリマーで積んだ荷物をその日のうちに深井梱包に届けたあと、本社営業所に帰庫するようになった。
(六) 右(五)の行程になって以降、訴外両名が日立化成ポリマーから深井梱包に到着する時刻は午後五時前後となることが多かったが、平成七年八月二九日には午後七時三〇分ころ深井梱包に到着し、訴外両名が荷下(ママ)ろしを始めたところ、深井梱包の係長(当時)の山本洋二(以下「山本」という。)から、到着が遅くなったことや、日立化成ポリマーを出発する際に指示に反して深井梱包に電話連絡をしていないとして、激しく叱責され、これに対する訴外両名の態度も相当でないとして、深井梱包は、同月三〇日、原告に対し、訴外両名が指示に従わず業務上支障があること及び顧客の管理職員に対して不相当な言動をとったことを理由として、八月限りで運送委託契約を解除すると通告してきた。
3 本件懲戒解雇処分の手続(<証拠略>、弁論の全趣旨)
(一) 原告は、訴外両名から格別事情聴取などをすることもなく、契約の終期となった平成七年八月三一日までの二日間、訴外両名を従前どおり深井梱包の業務に従事させた。他方、同月三〇日、原告の本社営業所長伊藤伝吉(以下「伊藤」という。)及び配車係櫻田勝(以下「櫻田」という。)が深井梱包の山本を訪れ、訴外両名の行為について謝罪するとともに、運送委託契約解除の再考を懇願したが、容れられなかった。
(二) 原告の総務部長小杉和朗(以下「小杉」という。)は、平成七年八月三一日、右の件に関して、翌九月一日に訴外両名に対する懲戒委員会を開くことを決め、最首代行者の承諾を得た。そして、同年九月一日午前九時三〇分から、原告の本社管理部事務所において、委員長の小杉、幹事の成田営業所長小川仁(以下「小川」という。)、書記の総務部総務課長太田和美(以下「太田」という。)、委員の総務部経理課長山口まち子(以下「山口」という。)、総務部整備課長木村博(以下「木村」という。)、前記伊藤、空港事業部第二事業所長高倉達雄(以下「高倉」という。)のほか、訴外両名及び報告書作成者として櫻田が出席して懲戒委員会が開催された。
懲戒委員会では、訴外両名が、前記八月二九日の経過や深井梱包からの電話連絡の指示等の事実関係について争い、運送委託契約解除は深井梱包の一方的な路線打ち切りである旨主張したが、委員長である小杉の判断で訴外両名に対して出勤停止の措置が言い渡され(但し、のちに最首代行者の指示で自宅待機の措置に切り替えられた。)、また同日直ちに懲戒委員会として懲戒解雇相当との結論を出して、最首代行者に口頭で報告したうえ、同年九月五日、訴外両名は、格別の理由がないのに深井梱包の業務上の指示に継続して従わず、それを理由に契約を解除され、顧客である深井梱包の管理職員に対し不相当な言動に及び、その結果、原告の信用が毀損されたうえ、年間約八七〇万円の損害を被ることになり、また原告の指示に従わず、全く反省していないとして、就業規則八八条三号(重大な過失により会社、又は第三者に重大な損害を与えた者)、七号(粗暴又は不謹慎な言動により、業務遂行に支障を生ぜしめた者)、九号(正当な理由なしに上司の指示に従わなかった者)、八九条九号(前条に該当しその行為の著しく重い者)に該当し、懲戒解雇が相当である旨の答申書を提出した。
(三) これを受けて最首代行者は、平成七年九月七日、取締役会を招集し、懲戒委員から事情を聴取した上で、懲戒委員会の答申について検討し、取締役会としても右同様の理由から懲戒解雇が相当であるという意見をまとめ、同年一〇月一三日、当庁に対して、常務外行為許可申請(当庁平成七年(ヒ)第六一号事件)をし、許可決定を得て、同月一九日、小杉を介して、訴外両名に対し、懲戒解雇処分を通告した(以下「本件懲戒解雇」という。)。
4 本件懲戒解雇後の経緯と本件救済命令((三)は争いなく、(一)、(二)は<証拠略>により認める。)
(一) 平成七年一〇月三日、被告補助参加人は、原告が訴外両名を自宅待機処分としたことは不当であるとして、被告に対してあっせんの申請(千労委平成七年(あ)第六号事件)を行ったが、原告があっせんを辞退したため同月二三日、あっせんは打切りとなった。
(二) 原告は、訴外両名に解雇予告手当一か月分を平成七年一〇月二四日に振込送金し、同年一一月六日、訴外両名の請求に応じて離職票を交付し、訴外両名から作業衣と健康保険証の返還を受けた。
(三) その後、平成七年一一月九日、被告補助参加人は、本件懲戒解雇は不当労働行為に当たるとして、その撤回、原職復帰、賃金の遡及払い、陳謝文の掲示及び交付を求めて、被告に対し救済の申立てを行い(千労委平成七年(不)第四号)、被告は、平成九年八月七日付けをもって、本件懲戒解雇は訴外両名が被告補助参加人の組合員であること及びその役員として組合活動をしてきたことを嫌悪してなされた不当労働行為であると認定して、本件救済命令を発し、命令書は同月一一日、原告に送達された。
第三争点
一 被救済利益の有無(争点1)
1 原告の主張
訴外両名は、すでに原告における稼働を断念し、原職復帰の意思はないと認められる。まず、齋藤は、現在、補助参加人において組合専従活動に携わっている。また、那須は、平成一〇年一月二六日、原告との間で、平成七年一〇月一九日付けで自発退職し、原職復帰、賃金等金員の請求を一切しない旨の和解をし、現在、原告とは別の運送会社に勤務して、組合員としての権利義務を放棄し、組合を通じての救済を放棄しているのである。
したがって、訴外両名については、被救済利益は失われたと思料する。
2 被告補助参加人の主張
被救済利益がないとする原告の主張は争う。
二 本件懲戒解雇の不当労働行為性(争点2)
1 原告の主張
(一) 本件救済命令は事実を誤認し、法律上の判断を誤った違法なものである。
(二) 本件懲戒解雇につき裁判所の常務外行為許可決定を受けたことについて
(1) 訴外両名は、被告も本件救済命令において認定しているように、原告の運送契約先である深井梱包の業務上の指示に従わず、深井梱包の管理職員に対し、不相当な言動をしたため、運送委託契約を解除され原告に損害を与えたものであり、訴外両名のかかる行為は、職場規律を乱し他の従業員の士気を阻喪するばかりでなく、まさしく会社の存立をも危うくしかねないものであった。職務代行者らは、純粋経営的見地から、訴外両名が行った行為について、その軽重を量り、懲戒解雇もやむなしとの結論に達したにすぎないのである。
(2) そして、常務外行為許可決定の申立に(ママ)際しては、職務代行者らが裁判所に提出した書類中に、事実を歪曲したり、偏向的な資料等は一切混在せず、裁判所は、中立公正の立場から、被告も同様に認定した訴外両名の行為の存在を前提にして、懲戒解雇につき許可したのである。裁判所が常務外許可決定を下したということは、すなわち、裁判所が、原告の円滑な業務運営のために本件懲戒解雇を避けて通れないとの職務代行者らの経営判断を是認したことを意味し、その裏返しとして、本件懲戒解雇があくまで経営的見地から決せられたことを証明している。
(3) したがって、たしかに常務外許可決定と不当労働行為性の審査とは無関係であるものの、本件懲戒解雇の決定動機については、経営的判断によるものであることがより強く推認されるのである。
(三) 本件懲戒解雇の相当性について
(1) 被告は、本件救済命令書において、訴外両名の行為を「非難されてしかるべきものであると言わざるを得ない」とまで論じながら、<1>訴外両名の行為を始めから懲戒事案として扱ったことはそれまでの同様な事例と比較して重きにすぎること、<2>懲戒委員会は訴外両名に対する嫌悪感情をもって懲戒解雇を取締役会に答申し、取締役会は訴外両名に弁明の機会を与えることなしに右答申を追認したことの二点を指摘して、本件懲戒解雇の相当性を否定している。
(2)ア 被告の指摘する前記<1>の点については、まず、訴外両名の行為と同列に論じ得るような事例はそもそも存在しない。被告は同様の事例として、後記2の(二)の各事例を挙げているが、それは次のaないしdの事情に基づくものであって、本件のように顧客から運送委託契約の一部でなく全体を解除通告されるまでの事態はかつてなかったのである。
a 椎名光生にかかる一件
いわき貨物自動車株式会社が、原告に対し、平成七年秋ころ、東京・仙台間の臨時便を要請したところ、原告は、当時待機中であった従業員椎名光生に運行を命じた。椎名は、初めてで不慣れな便であったため、不注意で荷の一部を積み忘れてしまい、出発店が櫻田配車係に右積み忘れの連絡を入れたので、櫻田は急遽、別車で仙台あて当該荷物を配送した。ところで、当該便は、物量によって日々その都度依頼される臨時便であり、訴外両名の乗務したような定期便と異なるものであった。したがって、積み忘れ事故を理由に継続的な契約関係を打ち切られたという事情はない。かえって、いわき貨物自動車株式会社は、原告の的確な事故処理を評価し、以後も、原告に対し臨時便の運行を度々要請してきた。
b 石井治仁にかかる一件
従業員石井治仁が、平成五、六年ころ、佐川急便東京店・同練馬店の配送業務に従事していたとき、いつもの手順に従い、東京店配送事務所にて伝票その他の必要書類を受け取るのと引き換えに、コンピュータ端末機を返却した後、東京店を出発し、練馬店に向かった。
ところが、石井が、東京店配送事務所で書類等を受け渡していた間に、同人の知らないうちに、二、三個の荷物が荷台に積み込まれていた。そのため、石井は、到着した練馬店において、積み荷の一部が端末未入力となっている旨注意を受け、石井は自己の非を認め素直に謝罪したが、佐川急便は、石井に代え他の者を担当運転手とするよう求めた。そこで、原告は石井を配置転換した。しかしながら、原告は、運送契約自体が打ち切りになったわけでない点や端末未入力が石井の一方的な不注意によるものでない点を考慮し、ことさらに懲戒処分の対象としなかった。
c 及川信義にかかる一件
従業員及川信義は、平成八年五月二九日、千葉佐川急便の仕事でデパートの集荷便に乗務していたが、デパートに到着すべき指定時間に数回遅刻し、注意を受けたことがあった、(ママ)及川は、延着を謝罪し、時間厳守を約束したものの、千葉佐川急便は、右便を原告から他社に回した。そこで、原告は、懲戒委員会を開き、及川に対し、始末書の提出を求めるとともに、一週間の乗務停止を命じた。なお、懲戒解雇ではなく、乗務停止等が決定された理由は、基本契約そのものは存続したこと、及川が荷主に誠心誠意謝罪するとともに懲戒委員会の席上でも自己の非を素直に認めたこと、及川が今後二度と同じ失敗を繰り返さない旨誓約したことなどによるものである。
d 清水煌雄にかかる一件
従業員清水煌雄が、昭和五七年五月某日午前六時ころ、佐川急便木更津店に向かう途中、千葉市所在の川崎製鉄付近から市原市土井付近まで渋滞中とのことで、川崎製鉄近くのドライブインにて朝食をとり渋滞の解消を待ったところ、予定時間に約一時間遅れた午前八時三〇分過ぎに佐川急便木更津店に到着した。その際、清水は、佐川急便木更津店店長に対し、延着の理由を説明したが、結局、右店長は、清水に対し、翌日以降の出入り禁止を通告した。そのため、原告は、清水を佐川急便城南店・同千葉店間の転送業務に異動させるとともに、右清水に代わり他運転手を佐川急便木更津店にかかる業務に配転した。なるほど、清水の延着は、顧客の満足を裏切るものゆえ非難に値する所為かもしれないが、渋滞という不可抗力に起因したものであり、その非違の程度は軽い。また、運送契約自体を打ち切られるまでの結果にも至っていない。
イ そもそも、本件においては、訴外両名は、深井梱包の現場作業員(ピッカー)及び配車係の櫻田を通じて、電話による終業連絡の指示を受けていたにもかかわらず、行程変更に伴い終業連絡は無用になったとの独断に走り、一切連絡を入れなかったばかりか、訴外両名は、櫻田からの数回にわたる指示命令にも耳を貸さなかった。深井梱包は、荷の積み替えの関係上、訴外両名に対して、日立化成ポリマーを出る時間の電話連絡を指示していたものであるにもかかわらず、連絡不要との確信に基づいてこれに応じなかった訴外両名の行為に宥恕すべき事情はない。
加えて、訴外両名は、山本に対し、顧客に接するにふさわしい物腰や言葉使いをもって応じなかった上、同人に対して、「どうせセンターに帰ってくるのだから、電話連絡は必要ないと思った。」などと、終業連絡の趣旨を踏み違えたおよそ理由にならない弁明をしたので、山本は、正当な理由もないのに終業連絡という基本業務もこなせない業者とは取引を継続できないと判断し、原告に対する信用を捨てた結果、深井梱包は訴外両名の行為を契機に直ちに運送委託契約全体を解除した。
原告の経営状況が相当厳しい折、深井梱包による右運送委託契約解除は、一層、原告の財務状況を逼迫させることとなった。訴外両名によって原告はその存亡の危機に立たされたと言っても過言ではなかった。
ウ 結局、訴外両名の行為は正しく懲戒解雇に相当する重大事由であり、また過去及び現在を通して、本件と同列に論じうるような事例はないのである。
(3)ア 次に、前記<2>の点について、被告は、取締役会が直接に訴外両名に対し弁明の機会を与えなかったことを重くみて、本件懲戒解雇は懲戒委員会による偏見に基づくと断じている。
イ しかし、訴外両名が、何ら正当な理由もなく業務指示に従わず、顧客から運送契約を解除されたことは、紛れもない事実であり、被告もこれを認めているところである。たとえ取締役会が直接の弁明の機会を与えたとしても、訴外両名にかかる右事実は明らかでありその存在は否定されなかったはずである。
ウ 本件と同種事案はこれまでになく、取締役会を構成する職務代行者らが、六回にわたる慎重な討議を経て、懲戒解雇が相当である旨判断したのである。裁判所も、職務代行者らの右判断を支持し、常務外行為許可を下した。これら職務代行者らないし裁判所の判断過程には、被告の指摘するような懲戒委員会の偏見が介在する余地がなかった。つまり、被告は、直接の弁明の機会の不存在をことさらに強調しているが、かかる機会が与えられなかったからといって、たとえば、訴外両名が関与してもいない行為をなしたとして、いわば濡れ衣を着せられたという事情は毫も存しないし、また、ことさらに不均衡な懲戒処分がなされたという事情もない。
エ 原告は、就業規則に基づき、懲戒委員会に対する諮問・答申及び裁判所に対する許可申立てを経て、取締役会にて本件懲戒解雇を決定しており、その手続的要件の履践に欠けるところはない。むしろ懲戒委員会委員長による出勤停止措置を、代表取締役職務代行者の指示で自宅待機の措置に切り替えるなど厳格に手続的要件を遵守しようという慎重さが窺える。被告の論を押し進めると、原告は取締役会における直接の弁明の機会という就業規則外の手続を履践しなければならなくなる。
オ したがって、本件懲戒解雇は、実体的にも手続にも要件を満たしており、相当というべきであり、被告の判断は誤っている。
(四) 不当労働行為意思の不存在と処分理由の競合について
(1) 被告は、訴外両名が組合員であること及び訴外両名の組合活動に対する嫌悪が本件懲戒解雇の動機であったとして、本件懲戒解雇を不当労働行為と認定しているが、本件の場合、不当労働行為の成否を論じるに際し、不当労働行為意思の主体と処分理由の競合の点を考慮しなければならない。
(2) 不当労働行為意思の主体
ア 本件懲戒解雇を決定した機関は職務代行者らによって構成される取締役会であるところ、右職務代行者らには不当労働行為意思は存在しなかった。被告も、右職務代行者らに個別具体的に不当労働行為意思を認めているわけでなく、組合活動を嫌悪する懲戒委員会によって提出された答申を追認したことをもって不当労働行為意思の存在を捉えている。
イ たしかに、不当労働行為意思の主体を使用者本人に限定せず、ゆるやかに解することは、実務のとるところであるものの、日頃から懲戒委員会が実質的に被処分者を決定し、処分の程度を決定するなどの実態があれば格別、本件の場合、職務代行者らは、それぞれ弁護士としての識見に立って、訴外両名の行為の軽重を吟味して懲戒解雇の結論に至ったのである。被告の主張するような、懲戒委員の組合に対する嫌悪感情なるものは答申書上に一切表れていないことから、職務代行者らが右嫌悪感情に流されるまま懲戒解雇を決したというのは、客観的な証拠資料に照らしても、所詮ありえない。
ウ 被告は、職務代行者らが機械的に答申を追認したにすぎないかのように論じるが、本件では、平成七年九月七日から同年一〇月九日までの間に六回にわたって取締役会を開催している。要するに、本件の場合、不当労働行為意思の主体適格を求めるとすれば、取締役会、正確には職務代行者らしかないが、右職務代行者らには不当労働行為意思はいささかも存在しなかったのである。そもそも、弁護士である職務代行者らが裁判所の許可を得て不当労働行為をするなどあり得ない。けだし、職務代行者らは、法律専門家として一時的に会社の業務が適法になされるべく判断するにすぎず、あえて違法行為としての不当労働行為をする必要性は全くないからである。
(3) 処分理由の競合
ア 被告は、訴外両名に重大な職務指示違反の事実があったことを認めた反面、本件懲戒解雇の主要動機が原告の組合活動に対する嫌悪感情にあったともしている。いわゆる処分理由の競合の問題である。
イ しかしながら、本件懲戒解雇の決定的動機は、あくまで経営的見地から、原告の減収を招いた訴外両名を職場から放逐することにあった。業務指示に従わず、顧客からの信用を得られない訴外両名の態度からいって、訴外両名に対しては配置転換の余地もなかったのである。したがって、たとえ百歩譲って、原告にわずかなりとも不当労働行為意思があったと仮定しても、本件懲戒解雇は不当労働行為に当たらないと思料する。
2 被告の主張
(一) 本件救済命令は適法な行政処分であり、その理由は別紙命令書の理由欄記載のとおりである。被告の事実認定には何ら事実誤認はなく、また右事実に基づいて法律判断したものであって本件救済命令には何ら違法がない。
(二) また、原告において次の事実がある。
(1) 原告と佐川急便は、東京・仙台便の運送契約を締結していたところ、原告の従業員椎名光生が貴重品を積み忘れたことを理由に、佐川急便から、東京・仙台便の路線を打ち切られた。しかし、原告は椎名に何らの処分も課さなかった。
(2) 原告の従業員石井治仁が端末入力を怠ったということでその業務から降ろされた。しかし、原告は石井に何らの処分も課さず、無事故手当もカットせずに、ほかの仕事に回したのみであった。
(3) 平成八年五月二九日千葉佐川急便との契約を解除された。原因は従業員及川信義のミスだったが、原告は及川に何ら処分も課さず、一週間の有給休暇を取った後、他の路線で運転者として勤務している。
(4) 従業員の清水煌雄が、勤務時間中に食事を採(ママ)ったことで佐川急便から勤務態度が悪いと路線を打ち切られた。しかし、原告は何らの処分も課さず、それのみか清水は管理職に就いている。
以上のように契約を解除されたり、路線を打ち切られたりした事実があり、原告としては相応の損害が生じたものであるが、原因を作った者に対する処分は行われていない。これに対し、原告は、訴外両名について、懲戒委員会を素早く開き、本件懲戒解雇処分にした。前記四名の従業員の扱いからみれば、公平を失し、かつ過酷に失するものである。
この処分は訴外両名の組合活動を嫌った原告が、訴外両名を不当に排除しようとしたもので、不当労働行為に該当する。
3 被告補助参加人の主張
(一) 裁判所の常務外行為許可決定について
裁判所の職務代行者の常務外行為許可申請手続は非訟事件手続法一三二条の五による手続であり、対審構造ではなく、証明の程度は疎明で足りる手続であり、被解雇者の弁解の機会は保障されていない。実際にも裁判所が判断の資料としたのは、常務外行為許可申請書に添付された書類のみである。したがって、本件懲戒解雇につき裁判所が常務外行為許可決定をなしたからといって、それは、代行者に解雇の意思表示をなす権限を付与しているにすぎず、同決定は本件解雇の私法上の効力まで判断しているわけではない。ましてや、不当労働行為意思の不存在まで認定しているわけではない。
(二) 本件懲戒解雇の不相当性について
(1) 前記のように平成七年八月八日から、日立化成ポリマーで積んだ荷を深井梱包に届けてから帰庫するようになった際、訴外両名に対し、それまで行っていた終業の電話連絡をどうすべきかについて指示はなされなかった。そのため、右行程変更の結果、業務は深井梱包に到着して終了することになったことから、終業連絡の必要はなくなったものと考えて電話をしなかったものである。
また、八月二九日に山本から叱責された際、訴外両名とも同人を知らなかったため、到着がいつもより遅くなった理由を説明した後に、「あなたは誰ですか。」と尋ねたことはあるが、粗暴又は不謹慎な言動などはしておらず、訴外両名に原告の主張するような懲戒事由に該当する事実は存しない。
(2) 運輸業界では、担当運転手にミスなどの問題があった場合でも、契約解除や解雇というような強硬手段は避けられており、かりに百歩譲って訴外両名あるいは、いずれか一名に落ち度があったとしても、懲戒解雇に価するほどの理由はなく、懲戒解雇は重きに過ぎる。原告では、これまでも、ドライバーを乗務停止にしたり、コースを変えて他の便に振り替えたり、反省の色が見えないドライバーに対しては始末書を取った上で乗務停止ということをしたり、謝罪に行かせたり、二、三日下車勤務をさせていたりしたのである。商品事故のケースでも無事故手当のカット程度の措置しかとられなかった。結局、本件では、深井梱包の路線が二つある訳ではないのだから、コースを変えることは事実上不可能であるという口実をもって、他の事例との比較検討を十分することなく、最も過酷な懲戒解雇を選択したのである。
(3) なお、原告は、前記1(三)(2)アのaないしdの事情を述べるが、椎名の件では、椎名は当時在籍した運転手約九〇名の中では勤続年数は長い方から四人目くらいの経験(勤続二〇年以上)を積んだ労働者であり、かつ別車を出して当該荷物を仙台まで配送したとのことで、原告に損害を発生させたことは明らかである。清水の件についても、道路の渋滞という事態があったとしても、車の流れからそれて駐車し食事を採(ママ)るということは不可抗力とはいえない。石井の件については、いずれにしても同人が端末入力しなかったことが原因で路線打ち切りになったのであり、かつ石井の処分については担当路線の変更のみで、無事故手当のカットすら行われなかったのである。また、及川の件についての原告の主張も信用性がない。
(4) 結局、運転手の落ち度があった他の事例と比較して、本件は公平を欠き、重きに失するとした本件救済命令は正当である。
(三) 本件懲戒解雇の不当労働行為性
(1) 平成七年九月一日の懲戒委員会は、同年八月二九日の事案発生からわずか三日後、約六二時間後に行われた。八月二九日二〇時すぎ訴外両名が帰社して以降、九月一日の懲戒委員会開催までの間、原告は訴外両名から、八月二九日夕刻、深井梱包において、どういうことがあったのか、訴外両名が深井梱包の従業員に対してどういう対応をしたのかなどの点について、まったく事情を聞こうともしなかった。
また、原告は訴外両名を翌三〇日からの乗務からはずしもせず、契約の終期の八月三一日までの二日間、従前どおり乗務させた。さらに、原告は訴外両名を深井梱包に同道させて担当者の誤解や怒りを解くための努力をするなどという、通常行われるような対応もせず、事前の予告なしに懲戒委員会を開催した(訴外両名には九月一日午前九時に原告に出頭せよという通知が前日夕刻にあったのみである。)。
(2) この懲戒委員会では、一方的な路線打ち切りという深井梱包の対応に対して訴外両名の反論や説明がなされ、原告においてこれに対する再反論が全くできなかったり、むしろ同調したりしている点があるにもかかわらず、その後なんらの調査活動や検討期間も置かず、懲戒委員会の席上ただちに、役員でもなく権限もない者の決定で出勤停止の措置がとられたが、のちに職務代行者の指示で、あわてて自宅待機なるものに切り替えられている。そして、懲戒委員会から訴外両名が退席した直後の管理職らによる会議で、訴外両名の反論や説明を十分吟味することなく、また、事実関係の調査や検討もせずに、「いいや、切っちゃおうよ。」「切っちゃおう。」「やっちゃえばいいじゃん。」などと懲戒解雇に処する結論を出し、続いてすぐに、就業規則の懲戒解雇事由のどの条文を適用するかの議論に入っている。
(3) 本件懲戒解雇の意思表示自体は平成七年一〇月一九日であるが、懲戒委員会が行われた同年九月一日以降、解雇までの間に、職務代行者においても、管理職においても、訴外両名の反論や説明を吟味せず、また、懲戒処分をするか否か及びいかなる懲戒処分が適当かをさらに調査、検討した様子はない。行ったのは、ただ懲戒解雇を正当化する証拠作りと、懲戒委員会録音テープの外部委託による反訳をしただけのことであり、裁判所の常務外行為許可決定を待って、解雇通知をしたというだけのことである。
(4) 結局、本件懲戒解雇は、訴外両名が、被告補助参加人組合の役員として組合活動をしてきたことを原告が嫌悪してなされたものであることは明白である。
(四) よって、本件懲戒解雇は、労働組合法七条一号、三号に該当する不当労働行為であることは明白であり、本件救済命令は正当である。
第四争点に対する判断
一 争点1について
1 証拠(<証拠略>)によれば、原告と那須との間において、平成一〇年一月二六日、原告の那須に対する本件懲戒解雇の意思表示を撤回し、那須が、右同日付けで原告を退職すること、那須は原告に対して、原職復帰、賃金等金員の請求をせず、相互に債権債務の存しない旨確認することを内容とする和解が成立したこと、これに従って、那須は、現在、別会社において運転手として稼働していることが認められる。
そうすると、本件救済命令のうち、那須に関する部分については、右和解によって、その基礎を欠くこととなり、原告に対する拘束力を失ったというべきであって、原告には、これを取り消すことによって回復されるべき実質的な利益がない。したがって、本件命令中の那須に関する部分についての原告の請求は、訴えの利益を欠くものとして却下されるべきである。
2 原告は、齋藤についても、被告補助参加人の組合専従となっていることを理由に救済の利益がない旨主張するが、本件証拠上、齋藤が原告に対する請求を放棄したり、あるいは原告との間において、右那須のごとく原職復帰及び賃金の支払を求めない旨の合意がなされたような事実は認められず、原告の右主張は理由がない。
二 争点2について
1 裁判所の常務外行為許可決定について
原告は、裁判所の常務外行為許可決定がなされたことは、本件懲戒解雇が純経営的見地からなされたことが強く推認されると主張する。
取締役職務代行者は会社の常務に属しない行為をすることができないが、裁判所の許可を得た場合はこの限りではないとされている(商法二七一条、七〇条の二第一項)ところ、これは、取締役職務代行者の暫定的地位に鑑み、その権限を常務に限定するとともに、常務外の行為を行う必要がある場合を考慮して、裁判所の許可を得た場合についてのみ常務外の行為をなしうるとしたものである。
したがって、裁判所の右許可決定は、当該行為をなす権限を、取締役職務代行者に付与する手続にすぎず、当該行為の私法上の効力まで判断の対象としているわけではないのであって、本件において、裁判所が、取締役職務代行者に対し、本件懲戒解雇の意思表示をする権限を付与するとの決定をしたからといって、本件懲戒解雇の効力まで判断したものでないことはもちろん、右許可申請手続の構造に照らしても、本件懲戒解雇の不当労働行為性の有無や、それが純経営的見地からなされたものか否かについてまで判断が及ぶものということはできない。
よって、原告の右主張には理由がなく採用できない。
2 本件懲戒解雇事由について
(一) 証拠(<証拠・人証略>、弁論の全趣旨)によれば、次の各事実が認められる。
(1) 深井梱包では、以前から委託先の運送業者に対しては、異常連絡及び終業連絡を指示し、これを徹底させるため、テレフォンカード(深井梱包に直通するCカード)を運転手に交付しており、訴外両名に対しても、右各連絡を指示して、平成六年夏ころテレフォンカードを渡し、訴外両名も、この指示に従って、配達業務の終了後に終業連絡を行っていた。
(2) 前述した平成七年八月一日からの行程変更については、深井梱包の山本から、同年七月二九日ころ、原告の本社営業所長代理中村寛司に対して連絡され、同月三〇日、同(ママ)所長小川仁から那須に伝えられ、日立化成ポリマーの地図が渡されたが、その際、終業連絡の要否についての指示はなく、訴外両名は従来と同様にこれを行っていた。
(3) さらに、平成七年八月八日からは、配達業務の終了後、日立化成ポリマーで積み込んだ荷物を、そのまま深井梱包に戻って降ろしてから原告に帰るように行程が変更され、これは前記中村を通じて訴外両名に伝えられたが、このときも終業連絡をどうすべきかについて格別の指示はなく、そのため訴外両名は、従前と違って、業務の最後に深井梱包に戻るのであるから、別に終業連絡をする必要はないものと判断して、同月八日以降はこれをしなかった。しかし、深井梱包としては、右行程変更に伴って、訴外両名が日立化成ポリマーから深井梱包に到着した時点で、運んできた荷物の荷下(ママ)ろしや他の車両への積み替え作業が必要となり、そのための現場作業員の手配の関係から、行程変更の前よりも一層、日立化成ポリマーの出発時刻についての電話連絡が重要な意味をもつものとなっていた。
(4) そこで、山本は、訴外両名が電話連絡をしてこないため、平成七年八月一七日、櫻田に対し、訴外両名に日立化成ポリマーを出発する際、必ず電話連絡をするように伝えるよう申し入れ、これを受けて、櫻田は、同日、訴外両名が本社営業所に来た際に、深井梱包からの右指示を伝え、電話連絡を入れるように注意したが、訴外両名は、それが従前と同様の終業連絡と考えていたことから、櫻田に対し、深井梱包に直接戻るので電話連絡は不要である旨述べて、その後も深井梱包への電話連絡をしなかった。
(5) 平成七年八月二九日、訴外両名がいつもの午後五時すぎころを経過しても到着しなかったことから、山本は、訴外両名の着くのを待って、電話連絡をしない理由を直接確かめることにし、午後七時四〇分ころ訴外両名が到着して降車すると、すぐに、到着の遅れと電話連絡をしない理由を問い質したところ、訴外両名は、日立化成ポリマーを午後四時三〇分に出発して、途中の道路が渋滞したためと説明し、さらに山本を知らなかった齋藤が、どうせ帰ってくるのだから電話連絡は入れる必要がない旨述べたうえ、反対に山本の名前を尋ねる言動に及んだため、山本は不快に思い、また、指示に従えない業者との取引はできないと判断して、運送委託契約の解約に及んだ。
(二)(1) これに対して、(証拠略)によれば、山本が、平成七年八月八日から日立化成ポリマーから直接深井梱包に戻るように行程が変更されるに際して、現場作業員を通じて、訴外両名に対し、日立化成ポリマーでの荷物の積み込み終了後、必ず深井梱包に電話連絡をするように指示をしたと記載されているが、訴外両名はこの指示を受けた事実を否定しており(<証拠・人証略>)、本件全証拠によっても、右指示を伝えたという現場作業員を具体的に特定できないこと、(証拠略)の文面は最首代行者が小杉らからの報告をもとに起案したものであること(<証拠略>)、山本自身、現在では、現場作業員を通じた指示の点についての記憶が曖昧であると述べていること(<証拠略>)などに照らせば、(証拠略)の記載内容は信用できず、現場作業員を通じての前記電話連絡の指示の事実を認めることはできない。
(2) また、(証拠略)によれば、山本が平成七年八月一日以降の行程変更にあたって、配車係の櫻田に日立化成ポリマー出発時の電話連絡を指示し、八月中に少なくとも三回は櫻田に連絡の徹底を申し入れた旨、及び、櫻田が八月一日以降、再三にわたり、訴外両名に対して深井梱包に電話連絡をするように指示した旨の各記載があるが、(証拠略)によれば、櫻田が、深井梱包から右電話連絡を訴外両名に指示するようにとの申入れを受けたのは、同年のお盆過ぎが初めてであったことが認められるのであって、八月一七日以外に、櫻田による指示の存在を窺うに足る証拠のないことをも併せ考慮すれば、右各記載のような事実もまた認めることはできない。
(3) さらに、(証拠略)には、平成七年八月一日から七日の間にも、訴外両名からの電話連絡がなかった旨の記載も存するが、本件全証拠によっても、この間、特に深井梱包からの指摘や苦情のあった事実が窺われないことや、平成六年夏にテレフォンカードを渡されて以降、これを利用して終業連絡を行ってきた訴外両名が、平成七年八月一日からの行程変更を受けて終業連絡を取り止めることは考えられないことに照らせば、右の記載もまた信用することはできない。
(三)(1) そこで、以上を前提に、訴外両名に前記就業規則に定める懲戒解雇事由が存するといえるか検討するに、訴外両名は、平成七年八月一日以前から終業連絡を深井梱包から指示されていたもので、その後の行程変更に伴ってその要否が不明確になったとはいえ、連絡不要との指示を受けていたわけではなく、そればかりか、八月一七日には、わざわざ櫻田から電話連絡をするようにとの指示があったことからすれば、訴外両名だけの判断で同月八日以降、また右櫻田からの指示の後も電話連絡をしなかったのは相当でなく、その要否に疑問があれば、直接あるいは櫻田を介するなどして深井梱包に確かめるべきであったものと考えられる。
したがって、この限りにおいては、独断で電話連絡をせず、ことに櫻田からの指示後もこれを行わなかったことは、訴外両名が業務上の指示に違反したものといわざるを得ないのであるが、しかしながら、他方、それには、日立化成ポリマーからの出発時刻の連絡は平成七年八月八日以降の行程においては必ずしも終業連絡とはいいえない面があるにもかかわらず、これをいかにすべきかについて、的確な指示がなされなかったこと、櫻田による前記指示も深井梱包側における前述のような右電話連絡の意味を理解したうえでのものではなく、単に終業連絡としての電話連絡を訴外両名に求めたに止まるもので、そのために訴外両名もその指示を正しく受け止められなかったこと、訴外両名は従前から異常連絡及び終業連絡の指示には従っていたのであって、依然として右電話連絡が必要な理由を説明していさえすれば、敢えてこれに従わないものとは考えられないことなどの事情も存するのであって、これらを考慮すると、訴外両名の右業務上の指示違反が懲戒解雇を相当とするような就業規則の定める「重大な過失」(八八条三号)、「正当な理由なしに上司の指示に従わなかった」(同条九号)及び「その行為の著しく重い者」(八九条九号)に該当するとまでいうことはできないものと思料する。
(2) また、平成七年八月二九日の山本との前記のような応接については、顧客の管理職員に対するものとしては適切を欠いたものといえるが、懲戒事由としての「粗暴な言動」(八八条七号)とまでいうことはできず、また、山本自身がすでに相当に興奮していて、訴外両名は到着するや否やいきなり叱責されたこと(<証拠略>)や齋藤はそれまで同人を知らなかったこと、さらに前記の事情などからすれば、「不謹慎な言動」(同号)や「その行為の著しく重い者」(八九条九号)に該当するということもできない。
(3) なお、証拠(<証拠・人証略>、弁論の全趣旨)によれば、原告においては、本件以外にも、昭和五七年には、清水煌雄が佐川急便の配送業務に従事中、渋滞解消待ちを兼ねて食事をとったため延着し、平成五、六年ころには、石井浩(ママ)仁が佐川急便の配送業務で荷物の一部を端末に入力せず、平成七年秋には、椎名光生がいわき貨物自動車株式会社の臨時便で荷物を積み忘れ、そして平成八年五月には及川信義が佐川急便のデパート集荷便で度々延着して、それぞれ顧客の信頼を損なった事実があるが、石井及び(ママ)及川の件では当該配送路線の運送業務を解約されたにもかかわらず、石井については担当乗務が変更されただけで格別の処分はなされず、及川については本件の後であった事情もあって、懲戒委員会が開かれたものの、始末書の提出と一週間の乗務停止の処分に止まり、清水や椎名についても担当乗務の変更だけで処分はなされていないことが認められるのであって、これらに照らせば、原告における就業規則の懲戒事由の解釈の実情や懲戒処分の実態からしても、前記判断は相当ということができる。
(4) 原告は、右清水らの場合と比較して、訴外両名には反省の態度がみられないともいうのであるが、訴外両名は、運送委託契約が解除される結果となったことについて自分達にも責任のあることを懲戒委員会において認めており(<証拠略>)、また本件に関しては前述のとおり訴外両名のみを一方的に非難し難い事情もあることからすれば、他の非違事案と比較して反省の態度が顕著でないからといって懲戒解雇事由に該当するということもできない。
3 本件懲戒解雇における懲戒解雇事由等の検討について
証拠(<証拠略>、弁論の全趣旨)によれば、原告においては、深井梱包からの運送委託契約の解除が決まった直後の平成七年八月三一日に、右解除の事実と櫻田からの報告だけをもとにして、訴外両名から事情を確かめることなく、翌九月一日に懲戒委員会を開催することを決定し、同日の懲戒委員会では、前記電話連絡の指示の有無や八月二九日の山本と訴外両名のやりとりといった重要な部分で、懲戒委員らが報告を受けている内容と訴外両名の言い分とが異なっていることが明らかになったにもかかわらず、新たな調査や検討を加えることもなく、ことに、訴外両名に対する電話連絡の指示という重要な事項について、それがいつどのようになされたのか具体的に確定できていないのに、漠然と指示がなされていたとの前提に立って、即座に懲戒解雇相当の結論を出していること、そして、この答申を受けた最首代行者ら取締役職務代行者らにおいても、答申後最初に開いた九月七日の取締役会において、小杉や櫻田らからの報告と懲戒委員会の録音テープをもとに、それまでに受けていた報告内容等の書面化と日立化成ポリマー付近の公衆電話の存在について補充調査を指示しただけで、懲戒事由の存在を認めたうえ、懲戒解雇以外の処分の可能性や相当性についても必ずしも十分に検討することなく懲戒解雇処分とすることを早々と決定していることがそれぞれ認められるのであって、結局、本件懲戒解雇は、懲戒解雇事由の存在や懲戒解雇の相当性についての調査、検討が十分になされないままに行われたものということができる。
4 本件懲戒解雇の不当労働行為性について
(一) 証拠(<証拠・人証略>)によれば、本件では、平成七年九月一日に行われた懲戒委員会において、訴外両名が退席した後、懲戒委員らにより意見交換がなされたが、訴外両名及び被告補助参加人に関して、「あの態度、目つき、目線。」(山口)と那須の態度を非難し、「あの二人は運輸一般のどうしようもないやつらだ。」(小川)、「手に負えない。」(山口)、さらに齋藤の言動を捉えて、「取調べじゃないんだからさー。黙秘権ということはないよ、あのバカタレ野郎。」「不知だなんてねー。バカタレ、そこまで何をしてんだか知らないけど。」(山口)と述べ、訴外両名の処分に関しては、小川が「いいや、切っちゃおうよ。」と述べると、山口も「切っちゃおう。」と同調し、裁判の話題になると、「結果がどうなるかっていうのは、まあわかんないけどさあ。」(小川)、「裁判だって今始まったことじゃないもんね。」、「やっちゃえばいいじゃん。向こううまいからそれは何とかしてくるんだろうけどよ。で、勝利できるんであれば。」(木村)、「絶好のチャンス。」(小川)との発言が続き、懲戒事由に該当するかの検討に際しても、小川が「理由は何でもこじつけて、やっちゃえば。奴らに一年とかね、闘わせることを、彼らを弱らせると。」、「理由は多いほうがいいよ。」などと述べたうえ、最終的に、「あんまり深く考えない。奴らをやめさせることだけでいい。」(小川)、「まー、いずれにしても。・・・みんなの総意としては懲戒解雇。」(小杉)、「指示に従わずにさー、仕事が切られたにもかかわらず反省のいろがないと、で、懲戒解雇だと言うことだね。あとこまかい事は地労委や裁判所・・・彼らが訴え出たらはっきりさせよう。」(小川)として、これらの発言に対する反論もなく、懲戒解雇相当の答申をすることを全員一致で決定していることが認められる。
これに対し、証人山口は、右各発言が懲戒委員会後の雑談の中でのやりとりにすぎない旨供述するが、訴外両名からの事情聴取の後、引き続いて行われていることや、懲戒委員会としての結論をとりまとめていることからすれば、まさに懲戒委員会における委員としての発言そのものにほかならないというべきである。
(二) 右発言内容に照らせば、被告補助参加人及びその組合員である訴外両名に対する敵対、蔑視の態度が明らかであるとともに、訴外両名の処分についても、訴外両名を原告から排除する絶好の機会として懲戒解雇を選択した様子と、懲戒解雇を前提としてその理由をこじつけようとする態度が認められるのである。
そして、右認定事実に加え、前記2で述べたとおり、本件懲戒解雇は、懲戒解雇事由の該当性の点からそもそも疑問のあることや、他の非違事案における処分、対応との相違、本件懲戒解雇当時、被告補助参加人の公然組合員は訴外両名のみであったこと、懲戒委員会のメンバー構成は、総務部長、総(ママ)務課長、経理課長、整備課長、第二空港事業所長、本社営業所長であり、いずれも原告の幹部職員であることを総合すれば、本件懲戒委員会を構成した右幹部職員らに不当労働行為意思が存在していたことは明らかである。
(三) ところで、証拠(<証拠・人証略>、弁論の全趣旨)によれば、最首代行者をはじめ取締役職務代行者らは、懲戒委員らの右のような発言については知らなかったうえ、反対に、最首代行者は、懲戒委員会の開催に先だって、小杉に対し、訴外両名に十分に釈明の機会を与え、委員会のメンバー構成にも注意するよう指示し、かつ、九月七日の役員会においても、過去の労使間の問題とは無関係に、今回の事件に限って処分を判断したい旨を表明し、他の取締役職務代行者らもこれに賛同していることが認められるのであって、最首代行者らについて不当労働行為意思が存した事実を認めることはできない。
(四) しかしながら、不当労働行為意思の存否は、使用者本人(法人の場合は代表機関としての個人)あるいは当該不利益処分権者についてみることは勿論であるが、その補助的な機関や地位にある者であっても、それらの者に不当労働行為意思があり、その意思と使用者等がなした当該不利益処分との間に相当因果関係が認められる場合には、たとえ使用者等にその意思が認められないとしても、それを理由に使用者等の不当労働行為意思を否定することはできないと解すべきである。
これを本件についてみるに、証拠(<証拠・人証略>、弁論の全趣旨)によれば、本件懲戒解雇に至る経過においては、最首代行者より以前に小杉らによって懲戒委員会の開催が早々と決定され、最首代行者による諮問はその後を追う形でなされていること、懲戒委員会においても、訴外両名からの事情聴取の後、小杉ら懲戒委員らの独断で、その権限がないにもかかわらず訴外両名に対して出勤停止が告知され、後でこれを聞いた最首代行者によって自宅待機に切り替えられたこと、前述のとおり最首代行者をはじめとする取締役職務代行者らは、懲戒委員会の答申後、最初の九月七日の取締役会で、懲戒委員会の録音テープとその答申結果、小杉や櫻田らからの報告だけに依拠して、単に報告内容等の書面化と日立化成ポリマー付近の公衆電話の存在について補充調査を指示しただけで、独自の調査等を行おうとすることもなく、懲戒事由の存在を認めたうえ、懲戒解雇以外の処分の可能性や相当性についても必ずしも十分に検討することなく懲戒解雇処分とする旨決定していること、また最首代行者らは、平常から原告の経営や営業等に関しては、小杉や山口の報告を受けて承認を与える形でその職務を遂行しており、事実上、小杉や山口ら懲戒委員会を構成した幹部職員らが原告の業務を支配していたとも評価できること、さらに原告においては、現在までに何度か懲戒委員会が開かれているが、その答申内容と異なった懲戒処分がなされたような事実は窺えないことがそれぞれ認められるのであって、これによれば、最首代行者をはじめとする取締役職務代行者らは、懲戒委員会の答申内容を重視し、これに沿う形で訴外両名を懲戒解雇とすることを決定したものということができ、懲戒委員会の答申と本件懲戒解雇との間には相当因果関係の存在が認められる。
したがって、最首代行者をはじめとする取締役職務代行者らに不当労働行為意思が認められないとしても、本件においては、前述のとおり、懲戒委員会を構成する小杉や山口ら幹部職員らに不当労働行為意思が明白に認められる以上、不当労働行為性を肯定することができる。
(五) そして、前述したように、本件懲戒解雇においては、懲戒解雇事由に該当する事由の存在に問題があり、またその経過においても、懲戒解雇事由の存否や懲戒解雇の相当性についての調査、検討が必ずしも十分には行われていないこと、前述した懲戒委員会を構成する幹部職員らの発言内容から窺われる不当労働意(ママ)思の明白性などに照らせば、本件懲戒解雇は、被告補助参加人及びその組合員である訴外両名、そして訴外両名が役員として組合活動を行ってきたことを嫌悪して、訴外両名を原告から排除しようとしてなされた労働組合法七条一号、三号に該当する不当労働行為というべきである。
なお、証拠(<証拠略>)によれば、深井梱包による運送委託契約の解約によって、原告は年間約八七七万円の売上を失うことになること、原告の決算は、平成五年は一五五八万円の赤字を出し、平成六年は二四〇万円の黒字に過ぎないことからすれば、右売上の減少を等閑に付することはできないことが窺えるものの、同時に、原告の全事業所の売上総額はこの数年間にわたって毎年二〇億円以上に達していることが認められ、また深井梱包の運送業務は一人でも十分にできる仕事内容であるにもかかわらず、原告は訴外両名の二人をこれに従事させ、その人件費だけでほぼ前記売上に匹敵する金額に達していたこと(<証拠略>)を考慮すると、前記売上の減少という事実があるとしても、不当労働行為性に関する右判断が左右されるものではない。
三 よって、本件救済命令には原告の主張するような違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求中、千労委平成七年(不)第四号不当労働行為救済申立事件の平成九年八月七日付け命令中の那須一弥に関する部分は訴えの利益を欠くものとして却下し、その余の部分は理由がないから棄却し、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき、行政訴(ママ)訟法七条、民事訴訟法六一条、六六条を適用して、平成一〇年一〇月一九日に終結した口頭弁論に基づいて、主文のとおり判決をする。
(裁判長裁判官 西島幸夫 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 鈴木秀雄)